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ピカソ展@国立新美術館&サントリー美術館2008

「巨匠画家」と言って、私の脳裏に真っ先に思い浮かぶ筆頭はピカソ。
そのピカソ作品を世界中で最大規模で収蔵している美術館が
パリ国立ピカソ美術館だが、その改修を機に行われた世界巡回展が
日本の、東京にやってきた。
しかも、展示数もハンパではなく国立新美術館で約170点、
サントリー美術館で約60点と、かなりまとまって観るチャンスとなった。
「生涯においてこのチャンスを逃すと後悔しないか?」

まずは国立新美術館へ。
ここでのテーマは「愛と創造の軌跡」

生涯に愛した女性は一体何人なのか?
というくらい女性遍歴を重ねたピカソではあるが、
それは生きることと愛することという根源的なモチーフが
作品の創造と密接に結びついていたためだろうが、
その辺りが納得できる展示となっていた。
もちろん、対象の要素を再構成したキュピズム辺りになると、
「正直わからない」というのが率直な印象なのだが、
作品の持つ力は決して衰えることなく迫ってくるから不思議だ。

なかでも、興味深かったのは展覧会のポスターにも取り上げられている
「ドラ・マールの肖像」と「マリー・テレーズの肖像」の対比。
会場でもこの二つは並んで展示されている。
出会いはマリーの方が早く、二人の間には娘が誕生している。
両方ともキュビズムタッチで描かれているが、マリーの肖像で
使われている色彩は地味で穏やかで、控えめな印象を与える。
これはマリーの性格故なのかとも思えるが、むしろ、
ピカソの限りなき慈しみの現れ、と考えるほうが自然ではないか。
一方、マリーとの出会い以後に出会ったドラの肖像は、明るい色彩と
生き生きとした表現に、まるでピカソのときめきを感じるかのようであった。
性格の異なる二人の女性の間で、どちらにも惹かれ、懊悩するピカソ。
そんな、ピカソの姿がかいま見えたような気がした。

次に東京ミッドタウン内のサントリー美術館へ。
ここでのテーマは「魂のポートレート」

最初に青の時代の「自画像」が置かれている。
青を基調としたタッチで若い画家が描かれている。
目は見開かれ、年齢以上の背伸びした老成ぶりが感じられる。
若き日のピカソの意気込みを感じさせる完成度の高い作品。
さて、展示の最後は死ぬ一年前の作品「若い画家」
恐らく自分の若き日を描いたこの作品では、
晩年まで愛欲に生き抜いた毒気は感じられない。
点として描かれた眼にはなんらの欲も感じさせることなく、
実にさっぱりとした、むしろ清々しささえ感じさせる雰囲気がある。
死を目前にして至った老境のなんと穏やかなことか。
この対比だけでも、この展示は観た甲斐があった。

こんなボリュームで鑑賞する機会は私にとってはもうないだろうが、
天才ピカソをまさしく「堪能できた」展覧会であった。
ピカソ展@国立新美術館&サントリー美術館2008_c0007388_21274891.jpg

<蛇足>
国立新美術館の天井の高さと明るさは十分すぎる程。
あの開放感や余裕が鑑賞者の心の余裕を生むのでしょう。
一方、サントリー美術館の狭さと暗さは鑑賞者の集中を
生むのでしょう。性格の異なる展示環境。
歩いて数分の距離での合同開催は楽しい企画でした。
もちろん「ピカソ割引」は使いましたよ(^^)
by capricciosam | 2008-11-28 21:36 | 展覧会


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