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007慰めの報酬@先行上映2009

「善人が少なくなった」

映画の中では「善」と「悪」という対立する言葉が頻繁に登場する。
先に挙げたセリフはその中のひとつ。

シリーズを見続けてきた者としては、ボンドは常に善の立場で
巨悪と対決するという構図は当然至極なのだ。
しかし、今回はCIAとて巨悪と取引する悪として描かれる。
それは秩序を守るためなら、善という立場だとしても
それを辞するものではない、それくらい悪がのさばっている、
という現実的な背景を描きたかった、という意図なのか。

また、本作は前作の007誕生以前の話「カジノロワイヤル」の続き
というシリーズ初の続編のスタイルをとっていて、愛するヴェスパー
の復讐というボンドの「個人的感情」が伏線に置かれる。
また、登場するボンドガールも別の悪人への復讐に燃えている。
復讐はいけないことという倫理観に立てば、
二人とも一種の悪なのだろうが、正当な理由があれば
それとて許されるのでは、というスタイルは古今東西からの定番。
しかし、復讐を果たすことで彼らは本当に慰められるのか。。
傷ついた心に安らぎは訪れるのか。
映画を見終えて、制作者側のそんなメッセージを感じてしまった。

前作で新たなボンド像の創造に成功したと思うが、それは
決してウィットに富んだ紳士然とした姿ではなく、
荒削りでタフネスさ満点の姿であった。
ボンド誕生以前というふれこみ故、これは納得していたが、
今作ではその方向性がさらに強められている。
カーチェイスはじめ数々のアクションシーンでは不死身なボンドがいる。
闘った後もあまり呼吸も乱れず、無表情に立ち去る姿からは
人間臭さはあまり感じられない。
なんとも無機質で、ダークなテイストの強調。
この辺の、アクションが目立ち、人間臭さを押さえた演出というのは
観客の好みや評価が分かれるだろうな。

それから、ハイテク化への変貌ぶりはすさまじい。
MI6でのタッチパネルで必要情報が次々現れる様には唖然。
シリーズとしてはこれまでも、常に当時の現代に置き換えている
以上当たり前なんでしょうが、モダンなハイテク化されたオフィス
この辺も微妙に助長しているかな。

また、いわゆるシリーズでの「お約束ごと」が見あたらない。
例えばQ。Qと言えば秘密兵器。秘書のマニー・ペニーも。
さらには、決めゼリフ「Bond,My name is James Bond.」
(これは続編なので前作終盤で言わせているから、よしなのかな…)
それからシリーズ必須の、ほぼ冒頭に置かれるシーン。
敵の銃口がボンドを狙っていてボンドが敵を撃って血らしい赤に
染まっていく、あの場面。
「ないなぁ…」と思っていたら、ナント最後に出てきました。
そして、おなじみのジェームズ・ボンドのテーマも。
「カジノロワイヤル」と「慰めの報酬」の2作で初めてプレ段階の完成
という訳のようです。
「なるほどなぁ~」

それから、こんな場面も。
ベッドに横たわる油まみれの女性の死体。
その撮り方といい、「ゴールドフィンガー」の有名な場面そっくり。
監督の「ゴールドフンガー」へのオマージュでしょうか。
でも、50年以上前は金だったのが、現代では油。
今回も巨悪は資源の独占を狙っていたのですから、
構成としては着実に現代にマッチしていることは間違いありません。
先ほどのシリーズでの「お約束ごと」を登場させないことでも
ちらっと感じたのですが、制作者側は意識してシリーズもの
としての必須要素をはずすことでマンネリを打破し、
シリーズの再生と継続性を図ろうとしてるのかな、ということです。

シリーズ最短の107分らしいのですが、楽しむには十分でした。
前作の延長というストーリー構成の複雑さや、まるでアクション映画か
というくらいド派手なアクション満載の部分には評価の分かれる
ところだろうと思いますが、シリーズとしての作品の質は
十分保たれていると思いました。
まあ、いよいよプレ段階を終えた"ダニエル"ボンドが、
次はどのように登場するのか、シリーズのお約束ごとはどうなるのか。
ある意味、真価が問われるのは次回作のような期待と不安があります。
楽しみに待つこととしましょう。
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by capricciosam | 2009-01-17 13:02 | 映画


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