M.C.エッシャーの有名なだまし絵に「滝 WATERFALL」という作品があります。
水路を流れる水が滝つぼに落ちると、また水路を流れていき滝つぼに落ちる。 まるで無限運動のようですが、よく見るとなにやらおかしい。 奥行きと高さは個々に適合しているようですが、3次元的には適合していない。 立体を平面に押し込めた時に生じる錯覚を利用した訳ですが、 一見しただけではわかりにくいし、立体としては不可能のはずなのです。 しかし、福田さんはこれを立体的な作品として仕上げてしまった。 ある角度の視点から覗いて見るという制限はつくのですが、 それでも巧みに表現されていたのには驚きが先立ちました。 覗き窓から離れて近づいて見たりもしたのですが、やはり水は滔々と流れている。 「どんなからくりなの? えっ、福田さん。」 と、思わずニヤっとして、内心でこんな問いを発してしまった。 今回の展覧会も副題は「ユーモアのすすめ」とあるように、 「視覚」と「遊び」を融合させた、不思議で思わずクスッとくるような作品が多く、 固くなった頭には実に楽しい刺激に満ちています。 例えば、「ミロのヴィーナス」の胸像をベースに有名人の肖像をペイントしてある 一連の作品には、「どうして、こんなに似ているのだろう」と思わず唸ってしまいました。 リンカーン、モナリザ、エリザベス・テイラー‥ 白人だけではありません、なんと聖徳太子、雪舟、その上、作者自身まで。 中でも、傑作だなと思ったのは歌川国芳の寄せ絵。 思わず吹き出してしまいました。 でも、中には思わず襟を正したくなる作品もあります。 福田さんの代表的作品のひとつが写真の「VICTORY 1945」。 「ポーランド戦勝30周年記念国際ポスターコンぺ」で最高賞を受賞した作品ですが、 よく見ると、大砲から撃ち出されたはずの砲弾の向きが逆になっている。 戦う相手に与えた打撃も、結局は自分にも打撃となって返ってくるという 戦争そのものの無意味さを完結な構図と色でシンプルに訴えている傑作です。 襟を正すという感覚に近かったのが、破綻した旧北海道拓殖銀行のロゴマーク。 ある世代以上の道民にはなじみ深いあのマークです。 小生も社会人として歩みだした時に口座を開設したのが「たくぎん」でした。 破綻してから15年くらい経ちますが、展示されていたのが旧本店の看板だけに 胸にグッとくるものがありました。 福田さんの肩書きは「グラフィックデザイナー」ということなのですが、 そんなカテゴリーには収まらない自由さと深さを感じさせる作品群に 時間を忘れて見入ってしまいました。 いっしょに行ったカミサンが一足さきに出口で待っていたのですが、 小生が開口一番「あ~、おもしろかった」と言ったら、 出てくる人の感想はみな同じだった、とのことでした。 そうだろうな、と納得して退出しました。 <蛇足> 展示されている中には木製の玩具もありました。 福田さんは長女が誕生したのをきっかけにこの玩具づくりをはじめられたのだそうですが、 その長女が福田美蘭さん。 先の記事で偶然ふれましたが、思わず「なるほどなぁ~」です。
by capricciosam
| 2012-08-04 22:47
| 展覧会
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