金ではなく鉄として@岩波書店

散々な天気だった道内のGWですが、最終日は帯広で雪!?
当地は日中雨です。なんとも、印象的なGWになりました。
それでも、遅れていた桜前線もついに松前に到達したようですから、
明日以降は少しは「春」を感じることができるよう期待します。

さて、こんな訃報が目に入りました。

「社会派弁護士として知られ、「平成の鬼平」とも呼ばれた元日本弁護士連合会会長の
中坊公平さんが3日、心不全のため京都市内の病院で死去した。83歳だった。」
(以上5/5朝日より引用)

生前の中坊さんはTV等でしか知りませんが、人なつこい笑顔で
飾らないざっくばらんな語り口の庶民的な方だなぁ、という印象でした。
ただ、一回だけ一道産子としてありがたいな、と思ったことがあります。

ちょうど全国的に大型倒産が相次いだ1990年代後半。
不良債権回収を目的とした「整理回収機構」ができ、中坊さんが社長に就任されていました。
当時、北海道でも唯一の都市銀行だった北海道拓殖銀行(以下、「拓銀」と言う。)が破綻し、
道内資本の会社がいくつも連鎖倒産しました。
道民にとっては大きな不安を抱いた時でもありました。
そんな中、経営危機が噂されていたのが、「丸井さん」こと「丸井今井」デパートです。
地場資本のデパートとして本店の売り上げは道外資本の支店に伍してしたのですが、
創業家4代目の拡大路線による負債が重荷になり、倒産の瀬戸際にありました。

どんな地域にも「あるのが当たり前」的な地域を代表する企業があると思うのですが、
それが揺らぐというのは地域へ与える影響も大きく、
たとえ直接関係しなくても心理的には不安なものです。

「拓銀がつぶれ、これで丸井さんまでつぶれたら…」

まさしく、そんな不安にかられる道民も当時は少なからずいたはずです。

「1997年12月16日、丸井今井は緊急取締役会を開き、当時の今井春雄社長を解任した。
拓銀破たんから一カ月。後継のメーンバンクを見つけるには、拡大路線を推進した
創業家四代目と“絶縁”するしかないと判断したのだ。当時のグループ有利子負債は940億円。
歳末商戦用の決済が集中する翌年2月には、資金ショート寸前に追い込まれた。
結局、ここで30億円を新規融資した道銀が新たなメーンバンクになった。
また、拓銀の丸井今井向け債権354億円を引き継いだ整理回収機構(RCC)は
99年、「倒産すれば北海道経済に甚大な影響を与える」(中坊公平社長=当時)として、
178億円を債権放棄した。」
(以上、道新2007年7月27日より引用)

当時、この丸井今井の債権回収について中坊さんが、
「情けある回収をします」とTVで発言されていたのを聞いて、
一道民として感謝の念を抱きました。
「たいしたもんだな」と、改めて中坊さんを認識したのはこの時です。

機会があれば中坊さんの発言や著書に接したいと思っていたら
2002年立ち寄った書店で発売されたばかりのこの本を見つけたという訳です。
でも、いつものクセで「つん読」のまま年月が過ぎてしまいました。
そこで、今回の訃報に接しあわてて読んでみました。

本書は朝日新聞の家庭面に連載された(2000年7月~2001年12月)もので、
聞き書きの形をとっています。
中坊さんがどのような成長を経て、弁護士として活躍するようになったのかが
書かれている訳ですが、さぞかし小さい頃から優等生として成長されたのだろうな
という先入観はことごとく打ち砕かれます。
その辺は、奥様と見合いする場面での中坊さんの自己紹介を引用してみます。

「生まれつき強度の近眼で、ぎっちょで、どもってまして、16歳まで寝小便も垂れ、
学歴、肩書きはついてますけど小さい頃から優秀と言えず…」
(P.85より引用)

劣等感や弱者としての生き様が、同様にこまっている人たちへの共感となって
活動のエネルギーとなっていったのでしょう。
中でも、倒産しかかった町工場や新幹線高架橋工事で立ち退きを迫られた
京都の市場の事件は、中坊さんの現場主義の面目躍如たるものだと思います。
また、後者の事件での市場のリーダーだった上崎さんのように、
高度な倫理観によって自らを律し、リーダーとしての務めを担う依頼人に
邂逅していることで、より中坊さんの人格が陶冶されていくこともわかります。

森永ヒ素ミルク中毒事件裁判の顛末が書かれて本書は終わりとなり、
その後の豊田通商事件や豊島の産廃廃棄問題などは描かれていません。
しかし、本書で語られる中坊さんの思いや考えだけでも、
生きることに悩んでいる人には熱いメッセージが届くのではないかと思いました。
読んだ後、前向き気分になれる、温かさに溢れる一冊です。

中坊さんのご冥福を心からお祈りいたします。合掌。
c0007388_2038951.jpg

<追記5.7>
記事中、丸井今井の経営危機に際して
中坊さんが「情けある回収をします」と発言したのは、
「血も涙もある回収をします」の誤りです。訂正いたします。
丸井今井民事再生法適用に際して記事を書いていました。こちらをご覧ください。

[PR]
by capricciosam | 2013-05-06 06:47 | 読書 | Comments(0)


<< 大谷翔平札幌ドーム初打点を目撃... 楽しいフラッシュモブ >>