笠井誠一展@札幌芸術の森美術館2015

笠井誠一さんを知ったのは北海道現代具象展だった。現代日本の大家として
遇されている気配は感じたものの、作品そのものはシンプルな線と色で構成された
簡潔かつ平明な雰囲気が特徴的な静物画で、ちょっと人を食った感じもしない訳ではない
ので、どんな人物なんだろうとつい想像してしまったものだ。
つまり、いかにも大家でござい、というものとの対局に位置する感じがして印象に残った。
その方の大規模個展が出身地札幌で初めて開催される上に、自身が語るという企画が
あることがわかり急遽足を運んできた。

展覧会に出品している作家自身が語る機会というのは、昨年の「存在の美学」の
伊達会場札幌芸術の森会場でギャラリートークという対談形式で体験していたが、
個展で作家自身が語るという「アーティスト・トーク」は今回が初めてだった。

「笠井誠一(1932-)は札幌に生まれ、名古屋と東京を拠点に活躍する画家です。
花や果物、楽器や道具などといった限られたモチーフを、卓上や室内に配した
独特の静物画で知られ、その透明感あふれる画面と緻密な構築性によって、
高い評価を得てきました。清廉な空気を漂わせる笠井の静物画は、およそ40年に
わたって長くそのスタイルを貫き、現在に至っています。」
(以上、笠井誠一展チラシから引用)

会場に現れた笠井誠一さんは83歳らしい小柄な御老人でしたが、
スーツをきちんと決めて、加齢による崩れを微塵も感じさせません。
(愛知県芸大でポストをこなされてきた故なのかもしれません。)
なにより目が活きている。驚きつつ、活力が衰えていない証左だな、と思いました。

展覧会は大きく「笠井誠一の世界」「札幌/東京 絵画の道を志す」
「バリヘ 自らの絵画表現を求めて」「帰国 日本での基盤を固める」
「洗練のとき 伸展する活動」「円熟の功 さらなる深み、さらなる地平へ」と
6つのコーナーに分かれており、合計一時間に渡るトークでした。
トークはそれぞれのコーナーごとに笠井さんが解説を加えていくやり方で進んでいきました。
内容は思いつくままの雰囲気もあるのですが、なかなか興味深い。
ひとつひとつの作品に蘊蓄を語るのかな、と思っていただけにこれは想定外でした。
今回はメモもとらずに聴いていたので細部の再現は難しいのですが、
なかなかユーモアのある方で、たびたび笑ってしまいました。

これまでも初期の作品から近作までを回顧する展覧会は何度か観てきているのですが、
そのたび画家の作風が変化するターニングポイントを発見することがあります。
今回も、パリへの留学は現在に至る画家としての作風を形作る起点になったんだろうな
という劇的転換がみられます。
それはパリへの留学の時教えられた「肉体も建築学的に表す、情緒を排する」(笠井さん曰く)
という徹底した教えだったようです。確かに、芸大時代のデッサンと比較してもその違いは
素人目にも異なるようでした。また、セザンヌの影響を受けたという作品もあるのですが、
小生が注目したのはむしろ愛知県立芸術大学にポストを得てから描いた「滞船」でした。
笠井さんは特に説明もなく流したのですが、家庭を築き、不安を抱えつつ、安定していくという
時期に描かれたこの作品は船を描く輪郭とシンプルな構成とリズム、そして抑制された色遣い。
現在に至る笠井芸術の完成に至る原型を観る思いでした。

また、笠井作品に特徴的な黄色ですが、背景とテーブルで使い分けていた
暗い黄色と明るいライトな黄色の使い方を逆にする転換が1980年代半ばに起きていました。
しかし、近作に至っては元に戻るなど、固定せずに使い分けていることがわかり、
画家としての円熟期に至り、高い自由度の獲得を感じさせるものがありました。

また参加者の質問にも答えていましたが、サイン自体には意味を持たせないという点と、
作品本体が乾ききってからサインすると思うようにサインできないから、やはり乾き切らない
「筆の勢いがあるうちに」(笠井さん曰く)サインしてしまうほうがよいという話が印象的でした。
たかがサインというなかれ、されどサインなんですね、きっと。

会期:2015年3月29日まで札幌芸術の森美術館で
(冬には訪れたことはなかったのですが、駐車場も除雪は行き届いておりました。)

<3.3追記>
文意が乱れていた部分を修正しました。
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by capricciosam | 2015-02-28 22:34 | 展覧会 | Comments(0)


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