大きな反響を呼んだことは知っていたが、こと春画だけにこれまで実物を観る機会は なかった。古今東西、男女の性器や陰毛を描いた美術品は膨大な数になると思うが、 これらを描くことまでは藝術の範囲として許容され、受容されてきた歴史がある。 先日もモディリアーニの描いた「横たわる裸婦」が美術品として歴代2位の210億円で 落札されたことが報じられたが、この絵でも性器そのものは描かれていないが陰毛は しっかり描かれている。でも、高価な美術品である。これを猥褻視する人はさすがに 少ないだろう。 では、人間の営みとしては欠かせないものではあるが、白日の下にさらすと社会秩序 を乱す猥褻なものとしてタブー視され、制限されてきた歴史が続いてきた。 21世紀を迎えても依然おおっぴらなものではないと思う。 愛でるというよりは、性愛の目的のために愛でるという方向に変質せざるを得ない のが春画の特性であり、春画たる所以なのだろう。 しかし、性交は人間の営みには欠かせぬもの故、厳しく制限されても 春画は支持され、命脈を保ち続けてきたのだろう。春画の持つ強みか。 として開館に合わせて足を運んでみた。朝から春画、である。開館前から30数人の 列ができていたが、18歳未満入場禁止とはいうものの、老若男女の幅広い層が 観賞しており、中でも若い女性の姿を多く目にしたことは正直驚いた。 を通じて制作された浮世絵版画は(略)大名から庶民まで貴賤を問わず、老若男女に愛好 されました。人間の自然な営みである性を主題とする絵画は、古今東西にわたって広く 存在しますが、その中で日本の浮世絵春画は質量ともに群を抜いており、まさに世界に 誇るべき美の世界を創出しています。」 (以上、展覧会チラシより引用) 構成されている。 イントロを描いた作品が展示されている。 「これが春画?」と一瞬侮ったが、次の肉筆の名品からはデフォルメされた性器や 性行為の場面が続き、いやはや圧倒された。 現代の性の乱れを嘆く声もあるが、描かれているものには男女の性行為だけでなく、 男色、複数での性愛行為等も描かれていて、現代でも耳にすることだけに、 性の世界は時空を越えて普遍的なものだな、と妙なところで感心してしまった。 描いていたことに驚いたことと、「陽物涅槃図」には思わず笑ってしまったこと位 しか印象にない。後者は一見したらよく見る涅槃図なのだが、横たわっているのは 手足のついた男根という擬人化したパロディ。笑いのめす、しゃれっ気というのは 今も昔も変わらないんですね。 次の版画の傑作では歌川国貞、歌川国芳、喜多川歌麿等の彩色された版画は見事な 版画の技巧が凝らされていて、性愛の場面であることを抜きにしても惹きつけるもの がある。中でも鳥居清長の横長に切り取った4つの画面に様々な男女の性行為場面を 描いている「袖の巻」は、クローズアップされた男女の恍惚とした表情とともに 結合が段階的に深まり、ついには行為を終えた後の余韻に浸る様に至る。 時系列的な流れを描き、全体を描かない大胆なトリミング効果が意表を突いて 見事だった。露骨さを無視すれば見事な作品だ。 また、江戸時代以前は物語性があったものが、江戸時代になり急速に普及していく と物語性を喪失し、単に性愛の場面を描いたものに変っていった、と解説にあった が、これは春画の特性としては宜なるかなだろう。 春画展の企画が多くの国内の美術館、博物館で断られた中、ひと肌脱いで細川家所縁 の永青文庫で開催し、おまけに秘蔵の品物を堂々と公開する細川元総理の度量の広さ これまでどのくらいの入場者数なのか、どのような反響を呼んでいるのか。 興味深いところだが、制限のある中、ひとまず扉をこじ開けた意義はあったと思う。
by capricciosam
| 2015-11-10 00:18
| 展覧会
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