蝉しぐれ@映画

映画には文学作品が原作の場合もある。
この作品も原作は故藤沢周平氏の代表作として有名である。
原作の一節に、おふくの言葉でこうある。

「…きっとこういうふうに終わるのですね。
 この世に悔いを持たぬ人などいないでしょうから。…」

相思相愛でありながら理不尽な力で思いを成就できずに、
それぞれ青年として成長していく。その中での葛藤、苦悩、
挫折、それを乗り越える力強さを縦糸に、藩内の陰謀を
横糸に、この原作は見事なまでの清々しさと懐かしさで
描ききっている。

そういう意味ではこの作品は魅力的な反面、映画化の
ハードルは結構高くならざるを得ない。原作を超える感動を
与える作品を作り出す制作者の努力は大変なものがあるだろう。
その点、本作品は原作のあらすじを追いながらも、原作の
枝葉は適度に払って物語としてよく整理してあった、と思う。
特に、父の死体を乗せた荷車を引く文四郎が坂で立ち往生
していると、陽炎の中からふくが坂道を駆け下りてきて
助ける場面は、原作をうまくデフォルメして、二人の心の結び
つきを強く暗示させ、観客をよく引き込むことに成功している。
また、十代と成年になった文四郎とふくの役者たち4名も
健闘していた、と評価したい。私は市川染五郎も木村佳乃も
及第点だと思うのだが、いっしよに観たかみさんはTVドラマの
印象が良かったらしく、内野聖陽と水野真紀に抱いた好印象が
逆転するまではいかなかったようだ。
私はこのドラマは一度も観ていないのでなんとも言いようがないが、
そう言えば、原作以外にもテレビとの云々もあり得るんでしょうね。

しかし、こういう良い点はあるものの、何故か観終わった後には
仕上がり具合の印象がやや散漫な感じを受けるのが惜しまれる。
例えば、所々挿入される四季の風景は良いのだが、やや乱用
気味なことと、なかでも「海」のカットが違和感を与えるのだ。
江戸に発つ前に文四郎に会えなかったおふくや成人した文四郎
の背景に使われるだけに象徴的なものなのだろうが。
突如として原作でも描写の場面がない「海」が挿入されるが、
実に唐突な感じで、流れを止め、雰囲気的には異質な感じ。
原作の「海」坂藩にこだわりすぎたのか。
また、重要な脇役の逸平と与之助が少々すべり気味なのは残念。

とは言っても、デティールにこだわらなければ、原作を読む読まない
にかかわらず、それなりに楽しめる映画だと思いました。

写真は文庫版(文春文庫)
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by capricciosam | 2005-10-01 19:16 | 映画 | Comments(5)
Commented by ミチ at 2005-10-02 01:02 x
はじめまして。TBありがとうございました。
母を連れて見に行ったのですが、奥さまと同じ事を申しておりましたよ。
水野真紀と内野さんのテレビドラマの既視感が強かったようです。
俳優選びといい、テレビドラマでやっている場合は難しいですね。
実は苦手な俳優さんコンビだったために、どうしようと思っていたのですが、そんなことは超越して映画の世界を堪能しました。
Commented by capricciosam at 2005-10-02 06:03
>ミチさん、コメントありがとうございます。
>俳優選びといい、テレビドラマでやっている場合は難しいですね。
やはりTVドラマも結構評判良かったようですから、原作に加えドラマとも比較されるなんて、条件としては厳しいですね。
>そんなことは超越して映画の世界を堪能しました
同感です。原作を読んだ後でも楽しめると思いました。
Commented by 日本インターネット映画大賞 at 2005-12-29 11:43 x
突然で申しわけありません。現在2005年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。トラックバックさせていただきましたので、投票に御参加いただくようよろしくお願いいたします。なお、日本インターネット映画大賞のURLはhttp://forum.nifty.com/fjmovie/nma/です。
Commented by miyukichi at 2007-09-01 01:09 x
 こんばんは♪
 TBどうもありがとうございました。

 TVドラマのほうは未見なんですが、
 奥様はそちらの印象が強かったんですね。
 そう聞くと、観てみたくなりますね^^

 逸平と与之助、すべってましたか。
 私は期待が小さかった分、“意外に”やるじゃん、って
 思ってしまいました(笑)
Commented by capricciosam at 2007-09-01 07:19
>miyukichiさん、こちらこそ、TB&コメントありがとうございました。
>“意外に”やるじゃん
公開当時も感想を見ていくと、おっしゃるような好意的反応が多かったように私も感じました。でも、染五郎のような濃い芝居をする主人公相手にからむ主要脇役としては彼らのセリフはどうしても棒読み気味に聞こえてしかたなかったのです。その分噛み合わせがしっくりこなく、あのような評価となってしまいました。


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