トリビュート・トゥ・タケミツ@PMF2006

今年のPMFのメインプログラムはゲルギエフが妥当なところだろうが、
個人的には今夜のトリビュート・トゥ・タケミツもある意味メインだった。
2月札響定期のオール武満プロのショックというか、余韻を引きずって、
期待を込めてチケットを買った。

今回は武満の映画音楽を中心としてプログラミングされ、札響だけではなく
PMF生との混成オケであることが2大特徴ではなかったか。
前半は弦楽パートだけで演奏されたが、各楽器とも札響団員とPMF生が
ひとつのプルトをなして演奏された。プロを目指す腕前とはいえ、短期間
しか合同練習していないことでの音のざらつきが耳につくのではないか、
との懸念は一曲目の「死と再生」から幸いなことに消えていた。
弦を中心とした曲が多かったせいか、総じて良好なアンサンブルだった。
そして、今夜はソリストの腕前が光ったことも印象深かった。
二曲目「ノスタルジア」での伊藤亮太郎、三曲目「ファンタズマ/カントスⅡ」
でのI・ボースフィールドの冴え渡った技巧には引き込まれてしまった。
休憩後の後半では、最初に管楽器、打楽器も加わえて、かつ弦楽器は
もっと編成を小さくして「夢千代日記」が演奏された。
あのドラマは確か山陰の温泉地を舞台していたと記憶しているが、
曲を聴きながら、冬の鉛色した日本海の荒波のシーンを思い出していた。
次の「乱」は黒澤監督が久しぶりにメガホンをとった作品のように
記憶している(見ていないので記憶違いかもしれない)。
これはCDで聞くよりも心に迫る響きを感じた。ライブならではか。
最後に本日のお目当て「波の盆」である。
2月定期で耳にして以来、すっかりこの曲にはまってしまった身としては、
いささか小姑的に耳を澄ますことになってしまった。
PMF生もよく健闘してこの詩情あふれるこの曲の「歌」を奏でることに
貢献していたとは思うが、やはりところどころざらつきを感じる部分が
あったのは少々残念。臨時編成の弱さか。
やはり印象としては札響団員だけで演奏された2月定期が上回った。
しかしながら、十分満足すべきりっぱな演奏ではあった。
ただし、出番が複雑になったせいか、ステージに出てくるのに
自分の楽器を忘れてとりに戻るPMF生が目立ったのはいただけない。
プロの手前であるにしても、観客や他のメンバーを必要以上に
待たせてはいけない。

今回は歌手の小室等さんと武満夫人の浅香さんのプレトークがついていた。
本来出演予定だった長女が急病のため武満夫人が急遽参加してくれたようだ。
プレトーク自体は武満徹にまつわる断片的なエピソードの羅列のような
感じで、演奏会の作品を聞く上で役立ちそうなものは少なかったように思うが、
これはこれでおもしろい体験だった。
以下印象に残った話をいくつか。

◆新宿で武満夫妻、井上陽水、小室等らが飲んでいた時のこと。
 井上陽水、小室等がギターを持ち出してビートルズを歌いだしたら
 武満が楽器の口真似で参加してくるので、武満夫人が止めさせようとした。
 「だって、せっかく陽水さん、小室さんが歌ってくれているのに」
 気持ちはわかりますが、3人のセッションと考えると凄い光景ですね。

◆ギターを持って小室等さんが一曲歌ってくれました。
 「明日は晴れかな、曇りかな」
 この曲の詩は今日や昨日はくるしみや悲しみばかり。
 でも明日はきっと希望が、的な作りです。
 この曲は「乱」の音楽を作っていた時に即興的に作られたもので、
 曲作りには黒澤監督との関係で相当苦心していたようです。
 監督は好きなマーラーを聞きながら絵コンテを書いたりしていたようで、
 「乱」についても「ここはマーラーのように」と言っては武満ともめていた
 らしいです。
 ところで実はこの歌自体は「黒澤天皇」の気分の様子を表したもの。
 ところが、何も知らない当の御本人も一聴していたく気に入ったらしく
 「おっ、良い曲ができたじゃないか」と言ったらしい。
 
◆武満は外国へ行っても、着いた途端に帰りの時刻をすごく気にして、
 「時間は」「(帰りに)着る服は」とやりだすのだそうです。
 また、旅行へ着ていく服も自分では一切やらないため、夫人が
 日ごとにカバンに詰め込んでやっても、半分、ひどい時はほとんど
 手をつけないで持ち帰ったそうです。

◆詩人の谷川俊太郎は武満の代表曲は「波の盆」だと言ったそうです。
c0007388_5324323.jpg

<追記>代々木よもやまさんが聴講生を体験されながらトリビュート・トゥ・タケミツ
     を含めた圧巻レポートをされています。   
[PR]
by capricciosam | 2006-07-12 23:59 | 音楽 | Comments(2)
Commented by yoyogi39 at 2006-07-14 17:08
TBさせていただきました。
本番は、2曲までしか聴けなかったのでレポートありがとうございます。
今回は、リハーサルから4日間ずーっと聴きました。
Commented by capricciosam at 2006-07-14 22:49
>yoyogi39さん、コメントありがとうございます。
>リハーサルから4日間ずーっと聴きました
ブログ、とても興味深く拝見しました。シュミードル氏の「様々な技術を継承する場」という言葉は教育音楽祭の趣旨にもピッタリですね。「聴講生」制度をこんなに詳らかに知ったのは、初めてでした。いや~、何はともあれお疲れ様でした。


<< ムシムシ 曇天続き >>