不都合な真実@映画

映画の冒頭、一枚の地球の写真が映し出される。
宇宙船アポロが撮ったもので、これまでよく目にしたものだ。
白い雲が浮かび、全体に青い地球。
改めて地球とはなんときれいな「惑星」なのだろうと思う。
そこに生きていること自体に感謝したくなる。
その地球の姿はこれからも変わらないものだ、と信じて生きてきた。
少なくとも自分が一生を終えて、子孫の世代になっても。
もちろん、環境破壊が将来危機的事態を招くということは気になっていた。
でも、それはもう少し遠い将来の話、と無理にでも思い込もうとしていた。

<以下、ネタバレ的内容含みますので、ご注意ください>

大統領選敗北で打撃を受けたアル・ゴア氏は、これからの生き方を
模索する中で、若い頃から取り組んできた環境問題に進もうと考える。
氏は米国内外でスライド講演を数え切れないくらいこなして、
人類の唯一絶対の故郷である地球が危機に直面している問題を訴えていく。
深刻なテーマなのに、時にはユーモアもにじませつつ、
真摯な態度を貫き、説得力がある。
映画は氏のその活動を追ったドキュメンタリーであるが、
観終えて、衝撃と感動を覚える、実にヒューマンなものだった。

全地球的問題に取り組むためには、全地球的取り組みが必要であり、
そのアクションとしての「京都議定書」の意義の重大さを指摘する。
そして世界中の多くの国々で批准され、アクションを起こしているのに、
批准していない国が、まだ二カ国あることを指摘する。

「アメリカとオーストラリア」

アメリカは世界でもトップクラスの二酸化炭素排出国なのに、
現在のブッシュ大統領は議定書の批准をしないことを宣言するくらい、
米国の取り組みは遅れている。
州単位での取り組みも始まったようだが、まだまだ少ない。
その意識改革をこのような地道な活動が促しているのだろう。

しかし、地球温暖化の進行が急激に進み、かつ今のライフスタイルが
変わらなければ、少なくとも次世代には我々が享受している環境よりも
劣悪な、生存に適しているかどうかさえも疑わしい環境しか引き継げなくなる
という悲観的見通し(というより緊急警告)がこの映画で提示される訳だが、
観終えて、ここまで事態が深刻だったとは、と正直ショックだった。

地球的規模で人類が直面する問題の深刻さ、巨大さの前では、
映画で取り上げられているゴア氏の活動を、氏の政治的経歴から
色メガネで見るようなことは何ら意味をもたないし、
問題の本質から目をそらすことにしかならないだろう。
氏は、この問題は主義主張を超えた人道的問題、倫理的問題であり、
その解決には一人一人が立ち向かうことが必要である、と訴えている。
つまり、環境をここまで追いやったのが人間の営みなら、それを
解決することも人間がやろう、と訴えているのだ。

原題は「An Inconvenient Truth」
inconvenient はconvenientの反対語です。
convenientの意味は「便利な、都合の良い」
つまり「コンビニ」のコンビニエンスはここに由来します。
コンビニに象徴される、物質的に豊かで便利な生活を続けるためには
莫大なエネルギーの消費、浪費が必要です。
そのライフスタイルを享受し続けることに潜む「危うさ」はないのか。
そんな大上段に構えたことは別にしても、

「個人でこの問題に取り組むには、どこから、どうやって取り組むのか?」

その答えは、この映画の本編が終わったのちに提示されます。
ですから、本編が終わってもすぐに席を立たないで最後までご覧ください。
また、この映画の公式サイトに「take action」として
「自宅で取り組む排出削減」が紹介されています。
別に格段目新しいことがあるとは思いませんが、
やれることがひとつやふたつ、きっと見つかります。
一人の小さな取り組みを継続していきましょう。
私のような老境間近な者とて、寿命がつきるまでの間は
自然環境の劣悪化には付き合わざるを得ないのですが、
それでも寿命の長い若い方に比べれば短いほう。
若い方ならなおさら付き合う時間が長くなります。
劣悪な自然環境で老後を迎えたくないと感じる若い方なら、ぜひ取り組みを。

余談ですが、この映画を観たあとで、
「どうしてゴア氏が大統領に選ばれなかったのだろう?」
と、つくづく残念に思ってしまいました。
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<2.22追記>
米国の有力科学雑誌が「06年に最も影響力のあった政策指導者」に
ゴア氏を選んだとのことだが、むべなるかな、という気持ちを憶える。
政治家が国境を越えた地球規模の課題にこれほど果敢に挑戦している
姿など、かつてお目にかかったことがない。
しかし、これはゴア氏だけの特殊な例ではあってはならないのだろう。
国家レベルはもちろん、市町村レベルにおいてさえ、こと政治を志す人には
「地球温暖化」に関する視点が欠かせないのではないか、必須と言っても
過言ではないような気がする。そんな気がしてならない。
もちろん、地球温暖化は一部の人間だけが取り組めばよい、というものではない
ことはもちろんだ。ゴア氏は受賞講演で次のように発言している。

「私は地球温暖化と言わず、気候クライシス(危機)と呼ぶ。
気候クライシスは科学、政治だけの問題ではなく、個人に至る倫理の問題だ」

「不都合な真実」はアカデミー賞候補のようだが、一方ではゴア氏が
ノーベル平和賞候補という噂もある。さて、どうなるか、注目したい。↓


<2.26追記>
「不都合な真実」が長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。
グッゲンハイム監督とともに登壇したゴア氏は、地球環境温暖化について
「政治的ではなく倫理的問題です」
「環境対策はすぐ始められる」
と壇上から呼びかけたそうです。
世界の注目を浴びる授賞式なので、そこでのこの訴えが世界に広まって、
人々のアクションにつながっていくことを期待しています。


<10.13追記>
朝刊にノーベル平和賞受賞との大見出しが載っていました。
我々の存在の母体となる地球の環境が、温暖化によって劣悪化していく
という重大な危機に対して、最も効果的な警鐘を鳴らした人である
ことは間違いない。
同時受賞の国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)とともに
これからもこの問題の解決に向けた取り組みでの牽引役を期待したい。

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by capricciosam | 2007-01-20 23:51 | 映画 | Comments(2)
Commented by syunpo at 2007-02-18 19:07 x
TBありがとうございました。
>「どうしてゴア氏が大統領に選ばれなかったのだろう?」
と、つくづく残念に思ってしまいました。
……私の周囲にも、そのように述懐する人が少なくないです。でも、最近のブッシュ演説の中でも、(しぶしぶながら?)、地球温暖化対策を意識した言い回しがありました。ゴアのような大物政治家がこうした活動をしていることの影響力は侮れないですね。
この映画の中では、日本(企業)の対策は比較的好意的に言及されていましたが、昨今の日本の政治や企業のパフォーマンスをみていると、あまり自慢できるようなものでもないような気がしています。
もちろん、個人レベルでやれることをやることも大切だと思いますが……。
Commented by capricciosam at 2007-02-18 22:20
>syunpoさん、TB&コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、あわや大統領だった人物が精力的かつ真剣に活動することの影響力はすごい、と思います。翻って我が国にもそのような政治家がでないものか…。
>個人レベルでやれることをやることも大切
二酸化炭素排出量の多い米国と中国が京都議定書段階に一刻も早く取り組んでもらいたいのはもちろんなのですが、温暖化の進行を食い止めようとした時、あらゆるレベルでやるべきことをやる、ということが求められるのでしょうから、個人の段階でも手を抜くことはできなくなるのでしょう。


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