おくりびと@映画2008

死はやはり、忌み嫌うモノだろう。
まして死体にさわるなどということには嫌悪感がある。
しかし、身近な者の死に接する時はどうだろう。
人は否応なくその忌み嫌う死に正対しなくてはならない。

父が死んだ時、葬儀は万事葬祭業者任せであった。
担当者が現れ、てきぱきと道具を用意して、祭壇を作り、といった
諸事万端がプロの仕事であることに、半ば感心しつつ眺めていた。

さて、いよいよ納棺という時になったら、まったく別人が現れた。
差し出された名刺を見て、納棺がまた別のプロの仕事なのだと
初めて知った。
一体どうのようにするのか、と思っていたら、
遺族一同が注視する中、遺体をいったん裸にして死装束に着替え
させていくのだが、決して裸体は見せない。
しかも、その所作は見事という他なく、まさしくプロの仕事であった。
着替えが無事完了した時には、内心驚嘆していた。
うまいものだなぁー、と。
未だに鮮やかに思い出す。

この映画では、失職したプロのチェリストが故郷の山形で
納棺のプロとして成長していく姿が描かれていく。
なんとも極端な設定ではあるが、本木雅弘が好演。
最初の演奏会シーンでは飯森範親指揮山形交響楽団による
第九演奏会が観られるが、チェロを演奏する姿も違和感がない。

帰郷して、幼い日に使っていたチェロケースを開けると、
楽譜に包まれた石がでてくる。
その石は幼い主人公が河原で拾った石を父とばくりっこしたもの。
(ばくりっこ、とは「交換する」という意味の北海道弁です。)
この石っころの交換は、映画の中で「いしぶみ」という古代の行為、
想いを石に込めるという行為であることを主人公に語らせる。
でも記憶の中にある生き別れした父の顔ははっきりとは思い出せない。
このエピソードは終盤のクライマックスにつながるが、上手い。

四季の移ろいも鮮やかな酒田市を舞台に、
「納棺」という気になるけれど、よくわからない超ニッチな職業に
着目した企画の成功もあろうが、演出、脚本、演技、エピソード
すべてに渡って過不足なく出来ている感じで、高い仕上がり。
死を扱いながら、決して暗くはなく、むしろ笑いも涙もふんだんな
上質な娯楽作品。お薦めです。
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<蛇足>
客席の年齢層は高かったようで、シルバー世代のカップルも
ちらほら見られました。どのような思いでご覧になったのでしょうか。
最後にクレジットが流れる場面で本木雅弘が一人で死装束に
着替えさせるシーンが流れます。
改めて、見事だなぁと感心してみていましたが、演技指導は
父の時もお世話になったこちらだったんですね。
<10.14追記>
物語の重要なエピソードにからむ役をされていた
峰岸徹さんが亡くなられました。回想シーンを除けば、
死んで登場していたのですが、果たして、こたびは、
どんな「おくりびと」にめぐり合えたのでしょうか。合掌。

<2009.2.23追記>
米国アカデミー賞外国語映画賞を日本作品として初受賞。
おめでとう!!

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by capricciosam | 2008-09-20 17:13 | 映画 | Comments(4)
Commented by なぎさ at 2008-09-21 15:56 x
capricciosamさん こんにちは~♪
TBありがとうございましたm(_ _)m
ところが、こちらからのTBが未送信になってしまいました。
コメントだけで申し訳ありません。

今作はしみじみとしたとっても素敵な作品でしたね。

納棺の指導をされた方は、お父様の時にお世話になった方だったんですね。
これを観て、世の中にはまだまだ自分の知らない職業があるのだと実感しました。
そして、それを映画は教えてくれますね。

こういう良作と出会えると映画ファン冥利に尽きます!
Commented by ryoko at 2008-09-21 19:04 x
こんにちは!TBありがとうございます。
お父様の時にまさに映画と同じ納棺の儀をご覧になったのですね。
私はこの仕事、映画で始めて知りました。
妻美香の「汚らわしい」という言葉や幼馴染の言葉や態度には、びっくりし違和感を覚えましたが、「死」が遠い非日常になった今、やはり偏見を持って見られるのでしょうか?死に対する畏怖が偏見を生むのでしょうか?
最近義母を送った友人の場合、すべて葬祭社で進められきれいに納棺済みの状態でのご対面だったそうです。
地域によって送り方も色々なんですね。

Commented by capricciosam at 2008-09-21 22:55
>なぎささん、コメントありがとうございます。
貴ブログの記事からちょいと引用させていただきますね。
>世の中には人が嫌がる仕事がある。
 でも、そんな仕事ほど人間にはなくてはならない
 大事なものだったりする。
まさしく、納棺師という職業の社会的認識を改めさせる
革命的な作品でもありましたね。
そればかりではなく、貴ブログでも触れられている
ふぐの白子のエピソードなんて、哲学的命題の「生と死」を
考える上での、制作者からの解答と受け止めてもよいのかも
しれませんね。
何れにせよ、教訓的側面を程よく押さえた佳品であったと思いました。
>こういう良作と出会えると映画ファン冥利に尽きます!
まったく同感です。
Commented by capricciosam at 2008-09-21 23:25
>ryokoさん、TB&コメントありがとうございます。
貴ブログの記事からちょいと引用させていただきますね。
>まるでお茶のお手前のような凛とした形式美を感じました。
おっしゃるとおりの感想を目の当たりにして感じました。
まさしくプロの仕事でした。
>「死」が遠い非日常になった今
田舎で育った幼い頃や成人してからの田舎での葬儀では
納棺は親族が行うものだったのですが、目の当たりにしていた
ものの、如何せんやや他人事としてあったせいか、強烈な印象
としては残っていません。
まして、田舎とて葬儀社が仕切る今となっては、なおさら遺族が
死体に触れる最後の機会も、おっしゃるとおり失いつつある
のでしょう。
例え「穢れ」として忌み嫌う死でも、生と死は隣り合わせである
以上いつまでも「遠い存在」で放置されていいとは思えません。


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