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さようなら井上ひさしさん

休日の朝だから、少し時間をかけてネットでも眺めようとしたら、
目に飛び込んできたのが井上ひさしさんの訃報でした。

「とうとう逝っちゃったんだなぁ」

肺ガンを公表されていたのですから、ついに来たということなのでしょうが、
あの飄々として、人なつこい笑顔がもう見られないというのは
にわかには信じがたい気分です。
熱心な読者ではなかったのですが、振り返ってみれば井上さんの
多面的な作家活動に少しずつではあるのですが、触れているようです。

井上さんとの最初の出会い(もちろん作品を通じてです)は
放送作家としてでしょうね。
やはり、「ひょっこりひょうたん島」です。

なぁ~みを チャプチャプチャプチャプ 乗り越えて
くぅ~もを スイスイスイスイ 追い抜いて
ひょうたん島はどこへ行く‥

(節をつけて歌うと、こんな感じでしょうか)

幼い頃、サンデー先生と子供たちの冒険を、へんなキャラクターに笑いながら
テレビにかじりついて観ていたものです。

次の出会いは作家としてです。
「手鎖心中」で直木賞を受賞された後に、
あの「ひょっこりひょうたん島」の作者と同じとわかって興味が湧き、
手にしたのが「モッキンポット師の後始末」です。
さようなら井上ひさしさん_c0007388_194741.jpg

井上さんの青春と重なる悪童たちと関西弁をあやつる神父さんとの
絶妙なやりとりが醸し出す雰囲気がたまらない抱腹絶倒物語です。
「ひょっこりひょうたん島」以上のユーモアが満載だったのですが、
「宗教的許し」という少々重いテーマもちゃんと配置されています。
それ以上に「ハッ」としたのが、緻密な文章で書き込んで笑わせるという、
その手練れぶりでした。
井上さんの代表作としては挙げられない可能性大なのですが、
井上さんの職業作家としての腕前を感じさせてくれた一冊です。

最後の出会いは劇作家としてです。
晩年は「こまつ座」の座付き作者として劇作家に重点を置いていたように
感じていたので、一昨年の東京鑑賞三昧旅行の折に、
「太鼓たたいて笛吹いて」を鑑賞する機会を得たのは、
今となっては良い思い出です。
日常に流されている身には重い内容でしたが、達者な役者とともに、
程よいユーモアが散りばめられていて決して退屈はさせません。

ところで、かなり前に出版された妹尾河童さんとの写真対談集の中で、
井上さんの仕事場が紹介されていました。
机の前に自筆の自戒の言葉が貼ってあり、次のように書かれていました。

「むづかしいことをやさしく
やさしいことをふかく
ふかいことをゆかいに」

こうして、私的思い出を振り返っても、井上さんの姿勢は一貫していたんだなぁ、
と頷けるものがあります。

井上ひさしさんのご冥福をお祈りいたします。

<追記4.14>
自戒の言葉は次のように改められていたようです。

「むづかしいことをやさしく
やさしいことをふかく
ふかいことをゆかいに
ゆかいなことをまじめに」

by capricciosam | 2010-04-11 23:38 | 時の移ろい


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