【プログラム】
1 メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲ホ短調 (1845年初演)
2 ブルックナー 交響曲第7番ホ長調(ノーヴァク版) (1884年初演)
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ヴァイオリン:レオニダス・カヴァコス
創立275年という世界最古のオーケストラは、これまでどれくらいの作品の世界初演を
果たしてきたのだろう。今回の日本・台湾ツアーでは次の3プログラムが用意されている。
プログラムA 11/7札幌 11/12東京
①メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲
②ブルックナー 交響曲第7番
プログラムB 11/9横浜 11/11東京
①ブラームス ヴァイオリン協奏曲
②シューベルト 交響曲第7番「グレイト」
プログラムC 11/13東京(NHK音楽祭)
①ブラームス「ドイツ・レクイエム」
全てが、このオーケストラが世界初演したというから驚きだ。
どの作品もクラシック音楽の有名曲、定番曲ばかりだから、いかにこのオケが歴史的にも
重要なポジションを占めているかがわかる。
ヘルベルト・ブロムシュテット(以下「ブロムシュテット」という。)さんと
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(以下「GHO」という。)はKitaraでは、
2002年、2005年に公演を行っていたから、今回で3回目の来札公演となるはず
(2005年からは期間が空きすぎて少々自信がない)。
ブルックナー5番を初めて生で聴いたのは2002年のこのコンビによる演奏会で、
豪壮かつ悠然とした音の奔流に圧倒されて聴き終えた時の至福感は何物にも代えがたいと
感じたことが思い出される。一見豪快に指揮をされるように見えるブロムシュテットさん
だが、決して力づくではなく、自然にオケの力を引き出されるような印象をこの時抱いた。
あれから15年を経てこのコンビを再び聴く機会が巡ってきたら、またブルックナーだ。
しかも7番とは、なんという僥倖か。
2では内在する優美さと深い陰影が雄大な奔流となって身を包む感覚に襲われる
作品前半部が最高だが、ブロムシュテットさんはゆったりとした構えながら、
要所を引き締めてGHOの各パートから力を引き出していく。
力みかえったところがない、密度の高い音が心地よい。清潔感すら感じさせる。
老舗ならではの音の厚みと、その伝統に安住せずに常に革新している気配が感じられる。
名誉カペルマイスターとGHOの緊密ぶりが極上のひと時を与えてくれた。
ノーヴァク版だが、打楽器はティンパニのみ。
1では昨年のPMFに出演したレオニダス・カヴァコスがソリストとしてKitaraに再登場。
当時の感想は下記のようなものだが、
>カヴァコスのヴァイオリンは力み返ったところが微塵も感じられないのに、
>実に堂々たる歌いっぷりで正統派の美音そのもの。巨匠の趣。
「正統派の美音」がさらに徹底し、雑味、えぐみのない純水のごとき様には驚いた。
これ程演奏者の余計な情感が入らないまっとうな演奏はそう聴けるものではないと思う。
これに近い印象は2016年のイザベル・ファウストだが、同じ感動でも少し様子が違う。
カヴァコスは、まるで悟りでも開いたかのように自らの気配でも消したかのようだ。
すごく客観的なのだ。それでいて無味乾燥という訳では決してない。
良い意味で期待を裏切ってくれた訳だが、アンコールに
J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータより
パルティータ第3番よりガヴォット
この曲って、こんなにコケティッシュな感じの曲だっけ?と聴いていて笑みがあふれる。
カヴァコスの別な一面を見た思い。愉快。
当日券も完売し満席。
盛大な拍手とブラヴォーが大ホールを満たし、一般参賀が実現。
とても御年90歳とは思えぬ矍鑠(かくしゃく)ぶりのブロムシュテットさんだが、
さらに驚いたのはカヴァコスとともにサイン会に現れたこと。
感謝を伝えながらも、本当に恐縮してサインを頂いた。
<蛇足>
2005年の札幌公演は残念ながら聴いていません。
でも、GHO演奏会の翌日にはダニエル・バレンボイム指揮ベルリン・シュターツカペレ
札幌公演がKitaraで開かれていて、偶然ブロムシュテットさんを大ホールで目撃しました。
その時の様子は
こちらです。